概要
最近の自分は音MADを含め音源制作にAbleton LiveというDAWを使っているのですが、音MADを作る点ではREAPERを使用したほうが良いのではないか?と常々思っているので、その理由を複数連ねてみます。
あくまで自分の考える音MAD制作過程に軸を置いた時の個人的な考えであり、それがDAWの絶対的な優劣ではないということを念頭に置いてから見ていただきたいです 🙏
この記事は音MAD Advent Calendar 2021で自分が書いた記事の付録記事です。
ショートカットキーによるピッチ変更
個人的にはこの存在が音MADの制作工程に最も大きく作用しているのではないかと思っています。もはや音MADの基本アプローチと言っても過言ではなさそう。
普段からREAPERを使っている方々はあまり意識したこと無いかもしれませんが、これが音MADの出来具合いにも関わってくるものだと思っています。
例えばREAPERで音合わせをする場合、アプローチとしては例として以下のようなものが考えられます。
- ショートカットキーによるオーディオアイテムのピッチ変更
- サンプラーとMIDIアイテムによるピッチ変更
単純に音合わせに焦点を合わせた場合、後者の方が大変にお手軽ではあると思うのですが、手軽さ故に細かい部分の対応がなおざりになってしまう場合があると思っています。例えば主旋律に対して素材を当てはめている時、以下のような…
- ここの部分だけもう少し素材の頭出しを変えたいが、わざわざサンプラーの画面を開くのが面倒
- 面倒臭いので同じ音ばかり使ってしまう
- 結果として単調な結果になってしまう!!!
対比として、直接オーディオアイテムのピッチを変える場合、アイテム単体のスタート位置の変更は造作もないことだと思います。
ここで、ピッチ変更の手段としてのショートカットキーが存在しないDAW(ここではAbleton Live)の場合を考えると、おおよそ以下のようになるのではないでしょうか。
- オーディオアイテムのプロパティからのピッチ変更
- サンプラーとMIDIアイテムの兼用によるピッチ変更
前者の場合、ひとつのサンプルの音程を変えるために一度アイテムの画面を開き、トランスポーズを+1する必要があります。これは純粋に手間な行為なので、手数の問題でサンプラーを使わざるを得ないのではないかと思っています。すると、前述したオーディオアイテム単体の凝り方が出来なくなってしまうのではないか?と考えています。
後者の場合については先程色々書いた通りです。
流石に極端な考え方ではあり、いくらでも回避策が考えられるかと思います。例えば、
- サンプラーに対してエンベロープを設定する
- サンプラーを複数種類用意する
- 頑張ってオーディオアイテムを並べる
等々……
ですが、REAPERの場合は基本とも言える操作の副作用としてカスタマイズ性が高まっていることが重要であると考えています。
この図らずともバランスが取れていると言える状況で、素材の複製(Ctrl + D) → ピッチを数個ずらす(Shift + 9 * N回) の手順が確立しているのはとても大きいはずです。
オーディオアイテムに限らず、MIDIアイテムに対しても一括でピッチ変更が適用されるので、プロジェクト全体の転調も思いのままなのが本当に羨ましく思います。
豊富なJSFX/ReaScript
REAPERにはJSFXやReaScriptなどの独自なエフェクトが存在します。REAPERは機能の一部のAPIが外から叩けるようになっているので、これを利用することでエフェクトが実装出来る、という仕組みです。
幸いなことに、REAPERのコミュニティはそれなりに大きく、ある程度までのエフェクトであれば既に実装されています。また大変嬉しいことに、基本的に無料なので大量にインストールしておくことも可能で、それだけで引き出しが増えている!と捉えても良さそうです。
豊富かつカスタマイズ可能なアクション / ショートカット
先程力説したピッチ変更はREAPER上ではアクションという概念で、実行することで何らかの操作が行われるというものなのですが、REAPERにはこの類のアクションが大量に存在し、かつそれぞれ好きなショートカットを割り当てることが出来ます。
例えばピッチを1オクターブを変えるアクションや、グリッド線の幅を変えるアクションが存在します。
カスタマイズという点ではこれだけでもかなり豊富なのですが、自分の手でスクリプトを作成することで、更に便利に動かすことも出来ます。
前述の通り、REAPERは機能の一部をAPIとして提供しているのですが、これはオーディオエフェクト関連だけではなく、REAPERの設定値やタイムライン上のアイテムを自由に触るなど、割と色々な事が出来てしまいます。
これらの良い使用例としてMIDIアイテムからオーディオアイテムを自動生成するという時短ワザが存在するので、確かめてみてください。
また自分の方でもスクリプトとアクションを用いたグリッド線の楽な変更方法について記事を公開しています。もしよければご覧下さい。
豊富なReaPackリポジトリ
これらのJSFXやアクションについて、ReaPackというインストールの支援ツールが存在します。
JSFXやアクションがリポジトリという単位に大量にまとめられており、ReaPackはそのリポジトリを一元管理するために用意されています。
つまり、ReaPack上で世界中にある様々なリポジトリをインポートすることで大量のJSFXやアクションを一気に集めることが出来ます。先程述べたように、基本的にすべて無料なはずなのでどんどんインストールすると良いと思います。
ffmpegを備えている
REAPERではDAWに直接動画ファイルを並べ、レンダリングをすることも出来ます。これは音声に動画を紐付けることの多い音MADではわかりやすいメリットになるでしょう。
実はAbleton Liveでも動画の出力はできるのですが、REAPERはそれに加えて動画の入出力にffmpegを使用する設定が存在します。
ffmpegは各種メディアファイルのフォーマットを統合的に扱うことが出来るツールで、REAPERはこれを利用しているためにおおよその場合に問題なく動画の読み書きが出来るというわけです。
Ableton Liveはそうではないので、動画の出力に問題がある場合が多いです。REAPERが大変に羨ましい。
界隈にREAPERを使っている人が多い
音MAD作者は十中八九REAPERを使っており、事実上デファクトスタンダードとなっていると思います。この状況は同じくREAPERを使っている方には大変望ましく、REAPER自体の操作方法やノウハウについて集合知として溜めやすい状況にあると思います。
実際、Twitterのタイムライン上ではREAPERについての質問や、それに対する回答のリプライを見ることが昔から多々あり、これはとても良い流れだと感じています。
安い
最高です。個人利用であれば $60、 そうでなくても $225 で、どちらも安いです。
おわりに
以上、自分がふんわりと考えていた音MAD制作にREAPERを使ったほうが良いと思っている理由でした。
音MAD制作以外でも、割と「あっ、この機能羨ましいな」と思うことがあり、実際にいくつかの作業においてAbleton LiveとREAPERを往復することもあります。
自分はメインの環境をAbleton Liveに置いているのですが、これらはあくまでも頭の中に浮かんでいるアイデアを実現させるためのツールなので、適材適所でいいかんじに利用していければよいかなと思っています。